山口大学技術経営研究科
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西日本MOTコンソーシアム

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 山口大学大学院技術経営研究科

MOT一口メモ 第233回  ― 全固体電池 ―  電気自動車(EV)の普及に伴い,リチウムイオン電池の需要が拡大していますが,次世代の電池として全固体電池の研究開発が急ピッチで進んでいます。リチウムイオン電池は正極・負極・電解液・セパレータの四部材で構成されていますが,そのうちの電解液を固体電解質に置き換えたものが,全固体電池です。すでにトヨタやパナソニックが開発ラインを一部紹介したり,試作品を公開したりしていますので,まもなく全固体電池の時代が来ると思っている方々も多いと思います。しかしながら,IEAなどの見立てでは,全固体電池の製造が技術的に可能となっても,様々な理由から,ビジネスとして成立するまでには時間がかかるとされています。様々な理由を一つだけご紹介します。現在のリチウムイオン電池のサプライチェーンを置き換えるには相当な時間と努力が必要だということが挙げられます。その他の理由については,ご興味おありでしたら調べてみると良いと思います。  (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第229回  ― 生成型AIの流行 ―  昨年からChat GPTに代表される生成型AIが話題となっており,G7広島サミットでも議題に上がりました。情報通信分野だけでなく,その他のビジネス分野や行政サービスでのAIの活用も徐々に始まっています。ここ半年ほどでAIに対する認識は一変し,この技術による社会経済の大転換が起こりつつあります。AIにできないことも多々ありますが,一部の業務に関しては平均的な人間以上の成果を挙げている事例があります。「これはコンピューターにはできない」「これは人間にしかできない」という思い込みを捨てなければならない時代になりました。創造性とは何か,ということが常に問われます。  (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第227回  ― (続)懐かしい「3M」 ―   前回,「3M」の話を書きました。その「3M」とは,リニア(磁気浮上式鉄道=Maglev),MRJ(リージョナルジェット),MIRAI(燃料電池自動車)の3つの乗り物のことで,いずれも名古屋に本社あるいは開発拠点を持つ企業の製品です。期待が寄せられていましたが,その後の展開がどうなったかについてはご存じのことと思います。 このうち,MRJの開発中止については,中日新聞に「未完の国産旅客機MJの本質」という興味深い連載記事が出ております。 https://biz.chunichi.co.jp/news/article/10/39656/ 興味をお持ちの方はお読みください。   (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第226回  ― 懐かしい「3M」 ―   2017年頃かそれより前か定かではありませんが,「3M」あるいは「新3M」という言葉が名古屋の経済界周辺で聞かれました。その「3M」とは,リニア(磁気浮上式鉄道=Maglev),MRJ(リージョナルジェット),MIRAI(燃料電池自動車)の3つの乗り物のこと。いずれも名古屋に本社あるいは開発拠点を持つ企業の製品です。日本の技術力の誇り,日本経済の牽引車として期待されていたのですが,つい先月,この3Mの一角,MRJの開発中止が決まりました。残る,リニアとMIRAIはまだ将来の展望が開けません。現場で開発に従事している技術者には申し訳ないのですが,技術経営の視点から見ると,学ぶべきことが多い事例となっているように思います。   (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第221回  ― "emoji"の定着 ―   メールやチャットなど,電子的なコミュニケーションでは絵文字(emoji)が欠かせません。今ではUnicodeに収録され,かつてのようにPCや携帯電話の機種・OS依存性を気にする必要がなくなってきました。絵文字は日本発祥の文化という説もありますが,欧米でもコンピュータでのコミュニケーションに :-) や :-( といった横倒しの顔文字(emoticon)やASCII artという視覚表現が使われてきました。絵文字は情報通信技術の発達とともに広がってきたものであり,日本の携帯電話が大きく寄与しているというのが無難な説明になるでしょう。"emoji"は絵文字のローマ字表記ですが,英語圏では"e"は日本語の「絵」ではなく英語の"emotion"(感情)に語源があると認識している人もいるようです。   (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第220回  ― ノーコード,ローコード ―   最近,「ノーコード」や「ローコード」という言葉を聞くようになりました。ノーコードはソースコードを書かないアプリケーション開発手法,ローコードはソースコードの記述量を最小限に抑えて開発するアプリケーション開発手法のことです。 かつてはコンピュータの記憶容量や処理能力の限界から,ソースコードを簡潔に書くことが求められていましたが,今ではこうした制限がなくなってきたため,ノーコードあるいはローコードによるアプリケーション開発が可能になってきました。 ノーコードについては,特定のプログラミング言語に詳しくなくても,気軽にアプリケーションを開発できる,ということが謳い文句になっています。 しかし,重要なのはソースコードを書くか書かないかということではなく,どのような業務をアプリケーションによって自動処理するのか,また業務の手順・段取りはどうなっているのか,といった業務についての理解ができているのかどうかということです。 今,自分が担当している業務についての理解が大前提である,というのはいわゆるDX推進活動の全てに通じることです。   (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第219回  ― 脱炭素と私たちの生活 ―   日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを宣言しています。これを脱炭素(またはカーボンニュートラル)と呼びます。温暖化が気候変動を引き起こし,深刻な気象災害の増加を招いているらしい...ということを知っていても,脱炭素を目指して何をすればよいのかということを思いつかない人は多いのではないでしょうか?環境省によれば日本の二酸化炭素排出量の6割が衣食住・移動によるものだそうです。私たちの普段の生活が直接・間接的に地球温暖化に影響しているわけです。折しも最近はウクライナ危機や20年ぶりの円安など様々な理由で食糧・エネルギー価格が高騰しています。これは生活者にとってはピンチですが,生活を見直すきっかけになっています。食糧価格の高騰を食品ロスを減らしていくきっかけに,エネルギー価格の高騰を家庭の電気・ガス・ガソリンなどの使用量を見直すきっかけにすれば,自ずと脱炭素を目指した行動を選択することになるでしょう。   (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第217回  ― クラウドファンディングの成功と失敗 ―   近年,様々なプロジェクトの資金調達の仕組みとして,クラウドファンディングを利用する事例が増えています。私が知っているクラウドファンディングの成功事例としては,益子濱田窯と筑波大学大学院生有志チームが実施した「濱田庄司とバーナード・リーチの茅葺き長屋門再生と創造」というプロジェクトがあります。栃木県益子町にある,人間国宝・濱田庄司が愛した茅葺き屋根の長屋門を再生しようというプロジェクトですが,目標金額400万円のところ,1100万円を超える資金の調達に成功しました。プロジェクトの内容が明確であること,屋根の葺き替えの見学・参加ができるなど体験イベントが用意されていること,返礼品が充実していること,SNSや口コミで共感がひろがったこと,等々,様々な成功要因を挙げることができます。こうした成功例に対し,当然,失敗例もあります。個別の事例を挙げるのは控えますが,プロジェクトの内容が不明瞭あるいは伝わらない,情報が更新されない,支援者が喜ぶ仕掛けが無い,など,失敗例には失敗して当然の理由が数多く見出せます。クラウドファンディングの成功・失敗事例からは一般のマーケティングやセールスに役立つ知恵を見出すことができます。   (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第210回  ― 外来語の氾濫について ―  社会経済のグローバル化(ここにすでに外来語が含まれているのですが)によるものでしょうか,世間一般になじまないまま,とくにビジネス分野において次から次へと外来語が現れています。例えば組織論では,サイロやティールという単語が人口に膾炙しています。 サービス技術の分野でよく聞かれるマルチモーダルという言葉について,わたしはよく理解していないのですが,インターフェースや認証の仕組みついてマルチモーダルという言葉が使われるときと,交通分野でマルチモーダルという言葉が使われるときとでは意味合いに違いがあるように感じます。同じ表記の言葉でも,文脈を無視して使っていると誤読・誤解が生じるかもしれません。外来語は新しさを感じさせ,人の心を捉える役割を担っているわけですが,濫用すると雰囲気だけで内容の無い対話に陥る可能性があります。   (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第209回  ― EdTech(エドテック) ―  人類の歴史が続く限り,教育が無くなることはありません。また,教育は子供だけが受けるものではなく,大人も必要に応じて受ける必要があります。ジグムント・バウマン『リキッド・ライフ』によれば,古代ギリシャでは教育という言葉には,そもそも生涯にわたって受けるものという意味合いがあったということなので,「生涯教育」という言葉自体は冗語であると言えるでしょう。科学技術が高度に発達し,社会経済のグローバル化も進展し,学ぶべきことが山のようにあります。従来の教育内容と教育手法だけでは,最低限必要なことすら学びきれない状況になりつつあります。効率的・効果的な教育を行うためにはEdTech(エドテック),つまり教育と技術を融合することによって,教育のあり方を変えていく必要があると思います。オンライン/オンデマンド教育はEdTechの入口に過ぎず,教育の効果を向上させるためには,さらなる技術やコンテンツや手法の開発が必要となります。ビジネス的な視点から見れば,EdTech分野は新興市場であり,規模・内容ともに大いなる期待を抱くことができます。   (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第207回  ― DXとRPA ―  デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現,つまりデジタル技術やデータサイエンスを活用し,社会経済を変革しようという声があちこちで聞かれるようになりました。 製造現場では自動化・マイクロエレクトロニクス革命(ME革命)・IT化と長年にわたる進化の歴史があるため,DXと言ってもそれらの延長上にある当然の取組として受け止めていることでしょう。 DXが大きな衝撃をもって受け止められているのは,製造現場のような資本集中型の部門よりもむしろ,総務・経理・営業等々の労働集約型の部門でしょう。ヒトの手,ヒトの頭脳に頼らなければならなかった業務こそ,DXによって生産性を向上するべく変革を迫られています。例えば,事務作業が真っ先に変革の対象として挙げられています。 事務作業におけるDXの第1段階としてはRPA(Robotic Process Automation)の摘要が挙げられます。つい最近マイクロソフト社が,手順が決まったPC上の作業を自動化するRPAツール「Microsoft Power Automate Desktop」をWindows 10ユーザー向けに提供することを発表しました。やる気さえあれば誰でもDXの最初の段階に踏みだせる状況になったわけです。読者各位はこれを聞いて食指が動きませんか?   (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第206回  ― 遠隔コミュニケーションリテラシー ―  人間には保守的・惰性的な面がある一方で,状況に応じて対応できる柔軟な面もあります。テレカンファレンス,テレワーク,オンライン授業等々,コロナ禍の中で遠隔コミュニケーションが一気に広がったのを見ると,そう思います。対面のコミュニケーションでなければ伝わらないものがあるのは確かだと思います。しかし,遠隔コミュニケーションを実践していくと,対面しなければ伝わらないと思っていたことが,かなり遠隔コミュニケーションでも伝えられることがわかってきます。伝えたいことを相手に伝達できないもどかしさは,遠隔コミュニケーションに慣れているか否かによるもので,遠隔コミュニケーションに関する知識やスキル次第でかなり解消されるのではないかと思います。これからの時代はデジタルネイティブと呼ばれる若い人々が担っていきます。彼らとのコミュニケーションの中心は遠隔コミュニケーションになるのかもしれません。現在の不自由な状況を,むしろ遠隔コミュニケーションリテラシーを磨く機会として捉えるのが良いと思います。   (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第202回  ― 根強い技術革新信仰 ―  古い本を整理しているのですが,松岡正剛が子供向けに書いた『わたしが情報について語るなら』(2011年3月,ポプラ社)を読んで驚きました。「技術が新しくなることは『イノベーション』(技術革新)といって...」(同書390ページ)と書いてあり,子供向けであっても,知の巨人が「イノベーション=技術革新」という俗説を語っていたからです。多少であれ,技術経営に触れたことのある方であれば,「イノベーション≠技術革新」であることはご存知だと思います。この言葉はいわばリトマス試験紙で,その意味するところを尋ねてみるのは,相手のビジネス観を知る上で非常に役立つと思います。   (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)

MOT一口メモ 第201回  ― 加速10年 ―  「コロナ禍によってビジネス環境は10年分変化した」と,ある経営者は言っています。エッセンシャルか不要不急かという観点で商品やサービスは取捨選択されるようになっています。また,もともと足腰が弱く,衰退傾向にあったビジネスは一掃されつつあります。その一方で,技術的にはかなり進んでいたものの,なかなか社会的に受け入れられていなかった,オンライン会議やテレワークが急速に普及しつつあります。とりあえず職場に行けば,それが働いていることになる,というこれまでの認識が払拭され,ジョブ型雇用の考え方が浸透し始めています。ICTは社会の需要に対応してさらに加速して研究開発が進み,新たなサービスやビジネスが生まれつつあります。10年後までに考えておけばよかったことをいますぐにでも実現しなくてはならない状況に私たちは直面しているわけです。  (山口大学大学院技術経営研究科 福代和宏)